ロゼッタストーンのヒンディー語版

「直接法」で学ぶ外国語

外国語の習得に「直接法」と呼ばれる学習法があります。

みなさんおなじみの「文法、単語、会話」などと分けて学ぶのではなく、赤ちゃんが言葉を覚えるように、さまざまなシチュエーションでさまざまな表現をシャワーのように浴びせて、学習者自ら意味をとったり発話したりして自然に言語を覚えていくという学習法です。

大人が外国語を学ぶにはある程度ロジカルに系統立てて勉強したほうが効率はよいと思います。とくにお仕事で英語を生かしたい場合などは「いかに賢く筋道立てて読み書き発話できるか」がキモなので、「赤ちゃんが覚えるのと同じ方式」だけではどうにもなりません。

けれど、インド旅行に備えて「気楽に楽しくヒンディー語を学びたい、難しい話ではなく身の回りのことを話せるようになりたい」、そんな目的には、この「直接法」が適しているといえます。




従来のヒンディー語の学習

ヒンディー語はインドでの話者人口が圧倒的に多く、それに応じて日本の学習者数も多いため、優れた学習書が何冊もあります。ただ大学の講義のような小難しい書籍を、忙しい社会人が時間をやりくりして自力でこなしていくのはなかなか難しいものです。

まずはあの、まったく未知の文字を覚えるところから入り、文字の音を学び、単語を読めるようになり、文法を学び……。よほどのモチベーションか、差し迫った必要性がないと続きません。

使い勝手について

ロゼッタストーンの使い勝手について利点をいくつか挙げます。

  • PCに向かえば5分、10分といった短い時間で手軽に学習を進められる
  • 初心者の最難関である文字も自然と覚えられる仕組み
  • 同じシチュエーションを繰り返し多方面から補強するため確実に覚えられる

学習単位が細かく区切られているので、5分、10分といった隙間時間にちょっとだけ進める、ということができます。語学学習はなによりも継続が大事なので、気負わず続けられるのはとてもよいと思います。

また現在主力の商品であるオンライン版は、CD-ROMを取り出して、セットして、起動して、という過程なしにさっと始められる手軽さがよいです。

文字について

インドの都市部では街の案内にはほとんどすべて英語表記があり、日本のように外国人が駅や街中で案内が読めなくて困るということはありません。

ただちょっと田舎町に行くと、ヒンディー語に使われるデーヴァナーガリー文字表記、その地方の言語の文字の表記はあっても、英語表記がなかったりします。長距離列車で地方を通過しているときに、駅名が読めたりするとどことなく安心するものです。

また、このデーヴァナーガリー文字が読めないとヒンディー語学習上なかなか先の展開が難しく、従来の学習書ではまずここがネックでした。

ロゼッタストーンのよいところは、文字にまったく馴染みがない状態であっても文字が表示されており、音声や状況を手がかりに内容を理解していくうちに少しずつ読める文字が増えていくという点です。

※ ヒンディー語のスペルには揺れ(複数の綴り)があるので一概に間違いといえない場合もあるのですが、ときどき明らかなスペルミスがあるのを発見。これはちょっと困りましたねえ。

秀逸な場面状況設定

また、同じ例文が繰り返し手を替え品を替え登場します。あるときは単語の入れ替えだったり、あるときは質問の答えの選択だったり、あるときは発音の練習だったりと、お馴染みの写真が何度も出てくるので「あ、あれだな」とすぐ想像がつくのです。

そして、この場面状況を説明する写真が秀逸です。見た瞬間に一発でわかる場面状況設定で、どんな例文を学習者から引き出したいのか、なにを言わせたいのか、そんなものが瞬時にわかる写真が導入されているのがとてもよい点だと思います。

こんな人に向いている

とはいえ、向き不向きはあります。ロゼッタストーンのヒンディー語が向いているのはこんな人だと思います。

  • 自宅で毎日、ある程度の時間、PCを使う
  • 反復練習が苦にならない
  • ひとりでぶつぶつ呟いていても大丈夫な環境がある

自宅でPCを使う環境や時間がほとんどないと厳しいかもしれません。スマートフォンで使えるアプリもあるようですがあくまでも補助的で、メインの学習はPCでないといけないのがネックになるでしょう。

また語学学習には避けられないことですが、ロゼッタストーンの例文はかなり何度も何度も同じものが出てきます。とくに最初のころは表現の幅も限られているので「また同じやつだ……」と飽きてしまうこともあるかと思います。こういった反復練習をゲーム感覚で楽しめる人に向いています。

あとは基本的にマイクとイヤフォーンがついたヘッドセットを使って学習をするかと思うのですが(PCの外部マイクとスピーカーでもできなくはない)、たとえば夜中にひとりで怪しい言葉を発していても誰も訝しがらない環境はわりと大事です(笑)。

工夫が必要なところ

ロゼッタストーンに出てくるのは当然ながら教科書的な例文です。またアメリカ発の学習法であり、英語を始めとしたほかの言語とほぼ同じ進め方をする以上、「これはインドではありえないなあ」という状況が例文のためにあえて登場することもあり、ちょっと無理を感じる部分もあります。

昨今、ヒンディー語の話し言葉は日本語と同じように英語の外来語を多用するので、そういった英語の外来語で済む単語に、わざわざ古風なヒンディー語をあてていたりする(「トイレ」で通じるものを「便所」とか「厠」という、というような)のも、真面目な学習者にはいいのかもしれませんが、ちょっと冗長なところではあります。

日常会話が一番難しい

この教材で学習を進め、ある程度発話できるようになりインドに行ったとします。そこで起きるのが、「相手は貴女のいうことが理解できる」が、「貴女は相手のことばがよく分からない」という状況です。

どの言語でもそうですが、教科書的な例文と、いつも皆が話す話しことばは違います。日本語をとってみても、日常会話の、いろいろ省略したり略語を入れたりしたやりとりを非母語話者が理解できるようになるにはかなりのレベルが必要になるかと思います。

語学力のレベルを「日常会話程度」と表現することがよくありますが、日常会話のハードルはけっこう高いのです。

ロゼッタストーンの感想まとめ

純粋にヒンディー語の学習だけを考えるのであれば、最初の一歩を手軽に始めたい学習者にはとてもよい教材だと思います。なによりも音に慣れ、発話するので、書籍にかじりついてする学習とは比べものにならない親しみやすさがあります。

レベル3までひと通り終えれば、言語の基礎的な構造や言い回しは十分に学習できるでしょう。

その後、辞書をひいたりオンライン翻訳でわからない単語だけを調べたりと、自分でその先の学習を進めるための土台を作れるという意味でも、よい教材です。

ヒンディー語はレベル1、レベル2、レベル3という構成で、公式サイトによると1レベルあたりの学習時間は30時間から50時間とのこと。毎日30分続けたとして、順調に進めば約半年で修了する計算になります。

旅行者としては、どこへ行きたい、なにがほしい、なにをしたいなど、まずは「相手のいうことはともかく、自分の要求を一方的にでも話せるようになる」ことを目標にするとよいでしょう。